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旅の記憶

幾千の旅先で生まれる幾万の旅人の思い出。
一人旅であったり、家族旅行であったり、友達との旅であったり。どんな形であっても旅人の話は興味深い。今回のコラムはスペイン・マヨルカ島を旅したとある人物の物語。
ちょっと贅沢!旅コラム

「ロトゥーセ」~終わらない歩み~

思いとは裏腹の浮ついた足取り。マヨルカ島に来て3時間、いつもとはどこか違う自分に気が付いた。突き刺さる日差しと街を包む陽気に刺激され全身が反応してしまう。これが地中海の楽園と呼ばれる所以なのだろう。
スペインに渡ってきて10年。バルセロナの自宅にはサルバドールダリの「記憶の固執」から着想を得た自分の作品が置かれている。芽の出ない10年間、画家への夢があきらめきれず、雲の上を歩いているような感覚の毎日。時々こうして旅に出て、思い出を描いている。

マヨルカ島は1年のうち300日は晴天に恵まれ、温暖な気候と美しい自然があり、当然周りは海に囲まれている。地中海の楽園。
そんな謳い文句とアイランドリゾートが持つ特異な魅力に惹かれてマヨルカにやってきた。生活圏の外に出るだけで気分が高揚するのは自分だけだろうか。頭がいつもとは違う出来事で満たされ計画の無い旅も退屈することなくあっという間に過ぎていった。
そして旅の終わりが近づくのに比例して現実が近づいてくる。
ちょっと贅沢!旅コラム
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ジャウマ3世通りの「ロトゥーセ」を訪ねる。ロトゥーセは1877年にアントニオ・フルーシャが設立したインカで最初の靴工房。インカにおける靴の工業生産の礎を築いたメーカー。さらにアントニオの孫ロレンソは世界に展開するカジュアルシューズブランド「カンペール」を設立している。ここに来たのは昨日出会った男の話が頭に残っているからだ。

マヨルカ島内陸の街インカにある「靴の博物館」、2010年にオープンした新しい施設。
日本人が来るのが珍しかったのでその男は私に声をかけたそうだ。
昔、靴職人だったという男はロトゥーセとカンペールそこで働く職人の熱意と伝統について話をし、最後にアントニオ・フルーシャのことを語ったのだ。

今、手にしているのは一揃いの靴、頭の中では彼の言葉がこだましている。
「自分のやることを好きになって、あきらめず前に進みなさい。自分のルーツに忠実に。」
「日々向上」がロトゥーセの理念。
胸の奥に力が芽生えた気がした。帰路に着いた私の荷物に靴が一足増えていた。
 
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